
トレーニングの効果に影響を与える要素の一つに、トレーニングの容量(ボリューム)が挙げられます。ボリュームとは、トレーニングで行った仕事量(重さ×距離)に相当する概念で、「重さ×挙上回数」で求めることができます。
今回は、「セット数を増やしてトータルのボリュームを増やしたとき、トレーニングの効果にどのような影響があるか調べた研究」を紹介します。
論文タイトル
「1セット、3セット、5セットのレジスタンスエクササイズが筋力、筋持久力、筋肥大に及ぼす影響」
実験内容
目的
トレーニング経験のない男性における異なるボリュームのトレーニング(1セット、3セット、5セット)による最大筋力、筋量、身体能力の変化を比較する。
被験者
トレーニング経験のない48人の男性。
トレーニング
被験者をセット数の異なる3つのグループ(1セット 、 3セット 、 5セット)に振り分け、週3回のトレーニングを6ヶ月間行わせた。トレーニングはベンチプレスとレッグプレスを含む9種目*を、8~12RMの強度で行わせた。
*ベンチプレス、レッグプレス、ラットプルダウン、レッグエクステンション、ショルダープレス、レッグカール、バイセプスカール、クランチ、トライセプスエクステンションの9種目
測定
- ベンチプレス、ラットプルダウン、ショルダープレス、レッグプレスの5RM
- 上腕二頭筋、上腕三頭筋の筋厚
- ベンチプレス、レッグプレスの20RM
結果
- トレーニングを行った全てのグループにおいて、ベンチプレス、ラットプルダウン、ショルダープレス、レッグプレスの5RM筋力が有意に増加した。1セット群、3セット群よりも5セット群において著しい増加が見られた。
- 上腕二頭筋の筋厚は、3セット群と5セット群において増加した。特に5セット群での大きく増加した。
- ベンチプレスの20RM筋力は全てのグループにおいて増加した。1セット群よりも3セット群、3セット群よりも5セット群で著しい増加が見られた。
- 全てのグループで体脂肪率の減少、除脂肪体重の増加、垂直飛び能力の向上が見られたが、グループ間で有意な差はなかった。
結論
トレーニングの効果(筋力、筋持久力、筋肉量)はセット数(ボリューム)に比例する。
考察(管理人の私見)
さて、今回登場している「ボリューム」という単語ですが、ボリュームとはトレーニングで行った仕事量(重さ×距離)に相当する概念で、「重さ×回数×セット数」のことです。同じ重量・回数設定でも、セット数が増えるとボリュームは大きくなります。
例:セット数を増やしたときのボリュームの変化
- 80kg × 8回 × 1セット = 640kg
- 80kg × 8回 × 3セット = 1920kg
この研究では「1セット、3セット、5セットとセット数が増えるにつれて、筋量、筋力、筋持久力がより大きく向上した」という結果が得られました。つまり、「トレーニングの効果はボリュームに比例する」と考えられます。
特に筋厚に関しては、上腕二頭筋では3セットから、上腕三頭筋では5セットから急激に伸びています。これは筋肥大を起こすためにはある程度のボリュームの閾値を超えなければならないということかも知れません。
今回の結果を元に考えると、とにかくボリュームを増やすことが筋肥大においては効果的のように思えますが、果たして本当にそれが最善なのでしょうか?
ボリュームを増やすこと自体は非常に簡単で、強度を落として1セットあたりのレップ数を増やせば簡単にボリュームを増やすことができます。
例:1RMが100kgの人が5セットのトレーニングをしたときのボリューム
- 90%1RM(4RM)の場合 → 90kg × 4回 × 5セット = 1800kg
- 75%1RM(10RM) の場合→ 75kg × 10回 ×5セット = 3750kg
上の例では、どちらも限界回数で5セット行っているにも関わらず、強度の低い75%1RMの方がボリュームは倍以上大きくなっています。75%よりも50%、50%よりも20%と、強度を落とすに連れてボリュームはさらに稼ぎやすくなります。
しかし、筋肥大に必要なのはボリュームだけではありません。ある程度以上の負荷をかけて筋肉に力学的な刺激を与えることも重要です。これは鉛筆を持ってアームカールを何回やっても筋肥大は起こらないことを考えれば理解できるでしょう。
つまり、今回の研究から分かることは「同じ負荷強度であれば、セット数を増やした方が効果は大きい」ということだけです。
実際には、筋肥大を目的とするなら「ある程度の強度は保ちつつボリュームを稼ぐ」ということが必要になります。この2つのバランスをどう取るかは難しいところですが、筋肥大のスタンダードとされる8~12RMのトレーニングは、やはりこの2つのバランスがうまくとれた丁度良い重量設定と言えます。
強度を高める方法としては、補助者の助けを借りる「フォーストレップ法」や、インターバルを取らずに次のセットを行う「ドロップセット法」などがありますが、これらは1セットあたりの追い込みをきつくできる反面、次のセットで使用重量が落ちてトータルでのボリュームが稼げなくなってしまいます。
強度とボリュームどちらを重視すべきかは、個人の目的や体質によって変わってきますが、「ボリュームを稼ぐ」という観点では、最終セット以外での激しい追い込みは避けるべきだと考えられます。