
以前別の記事でスクワットにおけるトレーニングベルトの効果について調べた研究[1]を紹介しました。その研究では挙上速度の向上を中心としたポジティブな結果が得られました。
しかし、そちらは90%1RMで1レップを行った研究だったので、多レップの場合は疲労の影響を受けて別の結果になる可能性もあります。
そこで今回は疲労の影響を知るために、8RM(80%1RM)で8レップ行った際のトレーニングベルトの効果について調べた研究を紹介します。
論文タイトル
The effectiveness of weight-belts during multiple repetitions of the squat exercise. Med Sci Sports Exerc. 1992 May;24(5):603-9.
実験内容
5人のトレーニング経験者の男性に8RMの負荷でスクワットを8レップ行わせ、ベルトの有無による動作速度、腹圧、筋力発揮(外腹斜筋、脊柱起立筋、外側広筋、大腿二頭筋)等の違いについて調べた。
結果
- ベルトを使用すると1レップに掛かる時間が約6パーセント短くなった。その差はセットの後半になるにつれ大きくなった。
- ベルトを使用すると、スティッキングポイントにおける外側広筋の活動レベルが18%高くなった。
- 大腿二頭筋の活動はセットの後半で非常に大きくなり、ベルト無しでは31.5%、ベルト有りでは42.5%大きくなった。
- ベルトを使用すると腹圧が25~40%上昇した。
- 床反力、および脊柱起立筋と外腹斜筋の筋力発揮にベルトの有無で違いは見られなかった。
まとめ
ベルトを使用して多レップのスクワットを行うと、腹圧は上昇し、動作速度は速くなる。また、スティッキングポイントでは外側広筋の筋力発揮が高まり、セットの後半では大腿二頭筋の活動がより大きくなる。
考察(管理人の私見)
今回の研究でも、「ベルトを使用すると1レップにかかる時間が大きくなる」という結果が得られました。他の研究[1]でも同様の結果が得られており、ベルトの使用が挙上速度を向上させることは間違いなさそうです。
1RMの重量と挙上速度の間には深い関係があるので、ベルトを使用するとより大きな重量を扱えるようになると考えられます。また、セットの後半でその差が大きくなっていることから、ベルトの使用は多レップのスクワットにおけるセット後半の疲労を遅らせ、レップ数を伸ばしてくれる可能性もあります。
この研究では、多レップのスクワットにおいて、大腿二頭筋の活動レベルがセット後半で大きく上昇していることも分かりました。セットの後半になるにつれて大腿二頭筋の働きがより重要になるようです。さらに、ベルトを使用したグループでは使用しなかったグループに比べ約12%大腿二頭筋の活動が大きくなっており、もしかするとこのことがレップ後半における挙上速度の違いと関係しているのかもしれません。
また、この研究では、ベルトの使用により腹圧が25~40%上昇するという結果が得られました。これは1レップのスクワットについて調べた研究[2]の17%や、デッドリフトについて調べた研究[3]の13%に比べやや大きい数字となっています。どちらにせよベルトの使用により腹圧が向上するのは間違いなく、それにより脊椎に加わる圧縮力が減少する[3,4]ことで脊椎の安全性は高まると考えられます。
複数の研究を見比べても、ベルトの使用によるプラスの作用はあってもマイナスの作用はほぼないので、もし可能であればベルトは使用した方が良いでしょう。
[1] The effects of a weight belt on trunk and leg muscle activity and joint kinematics during the squat exercise. J Strength Cond Res. 2001 May;15(2):235-40.
[2] The effectiveness of weight-belts during the squat exercise. Med Sci Sports Exerc. 1990 Feb;22(1):117-26.
[3] Effects of a belt on intra-abdominal pressure during weight lifting. Med Sci Sports Exerc. 1989 Apr;21(2):186-90.