
スクワットと一口にいっても、しゃがむ深さやバーを置く位置、スタンスの幅などによって様々な種類があります。一般的には「ナロースタンスで行うと大腿四頭筋への刺激が強くなり、ワイドスタンスで行うと大腿四頭筋への刺激は弱まる代わりに内転筋と大臀筋への刺激が強くなる」とよく言われます。しかし、それは本当なのでしょうか?
パラレルスクワットで足のスタンス幅とバーベルの負荷を変えて、筋電図で各筋肉の活動を調べた研究があるので紹介します。
論文タイトル
「パラレルスクワットにおいて、スタンス幅とバーベルの負荷が脚の筋肉の活動に及ぼす効果」
Stance width and bar load effects on leg muscle activity during the parallel squat.
実験内容
目的
パラレルスクワットを異なる負荷およびスタンスで行ったときの、股関節から膝関節にかけて存在する6個の筋肉の筋活動を比較する。
被験者
9人のトレーニング経験者。
トレーニング
60%1RMおよび70%1RMの負荷(1RMはミディアムスタンスが基準)で、ナロースタンス(肩幅の75%)、ミディアムスタンス(肩幅)、ワイドスタンス(肩幅の140%)のパラレルスクワットをそれぞれ5回ずつ行わせた。
測定
大腿直筋、内側広筋、外側広筋、長内転筋、大臀筋の活動のEMG(筋電図)測定。
結果
- 大腿直筋、内側広筋、外側広筋の筋活動には、スタンスは影響を与えず負荷のみが影響を与えた。
- 長内転筋の筋活動は、ワイドスタンスのときに他のスタンスより約20%大きかった。また、ウェイトを持ち上げるときは下ろすときに比べ50%筋活動が大きかった。
- 大臀筋は、高負荷のときのみワイドスタンスの方が筋活動が大きくなった。また、ウェイトを上げるときの筋活動は下げるときの2.25倍大きかった。
- は、ウェイトを持ち上げるときは下ろすときに比べて50%以上筋活動が大きくなった。
まとめ
スクワットはスタンス幅が広い方が、内転筋と大臀筋の活動が大きくなる。大腿四頭筋と大腿二頭筋の活動にはスタンス幅は影響しない。
考察(管理人の私見)
この研究によると、パラレルスクワットの場合、ワイドスタンスでは確かに内転筋と大臀筋への刺激が大きくなるようです。ワイドスタンスでは内転筋がストレッチされること、そして股関節が外旋する方向にも力が加わる(大臀筋には股関節の伸展と外旋の働きがある)ことが刺激が大きくなった原因だと考えられます。

図1:スクワットで膝を外に開いた際に股関節周りの筋肉に働く力。 出典「Starting Strength」 Mark Rippetoe著 2013 The Aasgaard Company発行
面白いのは、大腿四頭筋の活動には負荷のみが影響を与え、スタンス幅が影響を与えていないという点です。今回の研究ではナロースタンスで行った場合もワイドスタンスで行った場合も大腿四頭筋の活動レベルに差はないという結果が出ています。
この結果を踏まえると、一般論である「ナロースタンスで行うと大腿四頭筋への刺激が強くなり、ワイドスタンスで行うと大腿四頭筋への刺激は弱まる」という説は誤りである可能性があります。
もし本当にスタンス幅によらず大腿四頭筋の活動レベルが同じなのであれば、内転筋と大臀筋も同時に強く刺激できるワイドスタンスの方が、下半身全体のトレーニングとしては有効だと言えそうです。
また、ナロースタンスには可動域が狭まってしまうという問題もあります。これはナロースタンスの場合、骨盤の前傾を深くしていくと骨盤と大腿骨がぶつかってしまうからという物理的な問題です。

図2:大腿骨と骨盤の干渉。膝を前に向けた場合(左)と膝を外に開いた場合(右)。 出典「Starting Strength」 Mark Rippetoe著 2013 The Aasgaard Company発行
ナロースタンスでパラレルより深く腰を落とそうとすると、骨盤はこれ以上前傾できないため、膝を前に出すか背中を丸めることになります。そうすると膝や背中への負担が非常に大きくなってしまいます。
以上のことを踏まえると、積極的にナロースタンスでスクワットを行う意味はほとんどないのかも知れません。